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尾﨑眼科だより 日時計
日時計85号（令和6年4月1日発行）
| 尾﨑眼科理事長 尾﨑 峯生 | |
陽春の候、皆様ますます御健勝のこととお慶び申し上げます。 先日、「北里柴三郎」の伝記を小学生の孫が読んでいました。野口英世と並んで北里柴三郎の名前をご存知の方も多いのではないでしょうか。 北里柴三郎は、1853年（ペリー来航の年）1月29日に肥後の国（熊本県）阿蘇郡小国郷北里村に庄屋の長男として生まれました。 明治3年、熊本では開明的な藩主細川護久（もりひさ） のもとで、「古城（ふるしろ）医学校（後の熊本大学医学部）」が開講すると、緒方正規（まさのり）、浜田玄達（げんたつ）、そして北里柴三郎が入学し、「古城三羽烏（がらす）」と呼ばれました。緒方と浜田は、後に東京帝国大学医科大学の教授及び学長となった人物です。教師のゲオルゲ・ファン・マンスフェルトは、多くの科目を自分自身で講義しました。マンスフェルトは、柴三郎をオランダ語で個人的にも教育したため、彼の語学力は格段に進歩し、塾頭として講義のまとめ役を務めました。また軍人か政治家になりたいという気持ちを捨てきれなかった柴三郎に対して、マンスフェルトは医療の大切さを説き、特に「公衆衛生」は、国を治す仕事であると話しました。柴三郎は「東京医学校」（東京大学医学部）に入学し、「大衆に摂生（せっせい）保健の道を説いて病を未然に防ぐことが医の本道である」と論じました。北里柴三郎の同期で、主席卒業の河本重次郎は、後に眼科教授となります。 北里柴三郎は、明治16年（1883年）内務省衛生局に勤務、後藤新平と出会います。また同期の緒方正規は、1853年八代の生まれ。代々医者の家系でドイツに留学して細菌学を学び、帰国後、北里に細菌学を指導しました。北里は、1886年コッホ研究所に留学。ローベルト・コッホは、炭疽病・結核・コレラという三大疾病の病原菌を特定した細菌学の巨人です。 北里はドイツ語も堪能で、実験の初歩はコッホの弟子レフレルに学んだ緒方正規から手ほどきを受けており、すでに準備を整えていました。北里は徹夜で研究を行い、破傷風菌純粋培養に成功します。さらに北里は、ベーリング博士と共著で、ジフテリアや破傷風に対する免疫血清療法について論文を発表し、後にベーリング博士のみが第1回ノーベル賞を受賞しました。 北里柴三郎の業績は国際的に高く評価されていました。留学期間を通常の留学生よりも延長したことから、帰国時には内務省の席がなくなっており、日本での就職先が決まらないままとなってしまいました。 北里は日本に帰る途中、英国・米国を訪問し、ケンブリッジ大学から細菌学研究所所長職という招請を受けましたが断りました。米国から希望通りの病院を作るという破格の招請も来ましたが、これも国費留学生だったため日本に帰るとして断りました。福沢諭吉が自前の研究所を寄付することになり、1892年「大日本私立衛生会・伝染病研究所」が設立されました。 1894年香港に致死率の高いペストが大量発生し、北里は香港に出張し、パスツール研究所のイェルサン調査隊とペスト菌発見の先陣争いが起こりました。イェルサンも北里も同時にペスト菌を発見し、北里は「ランセット」に報告し、欧米では「キタサト＝イェルサン菌」と呼ばれた後、「イェルサン菌」* という名前になっています。 北里の伝染病研究所は、志賀潔が赤痢菌を発見するなど多大な業績を上げましたが、伝染病研究所の国への移管問題に関係して、職員が一斉に民間に移り、北里研究所が1915年に開設され、北里は慶應義塾大学医学科の学科長に就任。1918年、帝国大学伝染病研究所と北里研究所は、「スペインかぜ」に苦戦を強いられました。北里は、日本医師会の創立にも尽力し、79歳で亡くなりました。 北里柴三郎先生は、人間くさい一面も持ち、細菌学で国民を守った偉人として、新しい千円札に肖像が刻まれ、長く記憶されることと思われます。 （参考文献：「よみがえる天才 北里柴三郎」海堂尊著 筑摩書房）*Yersinia pestis |
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