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尾﨑眼科だより 日時計
日時計86号（令和6年7月1日発行）
| 尾﨑眼科理事長 尾崎峯生 | |
向署の候、皆様ますます御健勝のこととお慶び申し上げます。 フィリピン・マニラにおいて開催されたアジア太平洋緑内障学会（会議）（5月24～26日、APGC）に参加してきました。 5月22日日向で手術を終えて、公威医師に後を託し、羽田まで夜のフライトで行き、午前1時半出発のマニラ行きJAL便でマニラへ。実質的な飛行時間が4時間程度しかないためなかなか眠ることもできず、朦朧とした頭で空港に出るとロビーは大混雑。学会場は、湾岸地域に開発された新しい国際会議場（SMXコンベンションセンター）でした。シンポジウムでは、落屑症候群と緑内障リスクについて講演しました。  会期中、様々な国から来られた先生方と昼食・夕食をご一緒する機会もありました。特に心に残ったのはポーランドから来たジャルノフスキ教授でした。ポーランドはロシアの近隣国であり、ロシアの飛び地と接しています。このため、ウクライナ戦争に巻き込まれる可能性があり、その危機感を覚えるとのこと。ウクライナの戦争は遠い国の戦争のように思っていましたが、ウクライナ戦争の影を近くに感じました。彼は落屑緑内障の研究にも携わっており、私どもの分子遺伝学的研究の共同研究者でもあります。ポーランドはナチス・ドイツのアウシュヴィッツ＝ビルケナウ強制収容所があったところです。アウシュヴィッツから生き延びて「夜と霧」という本を書いた精神科医ヴィクトール・E・フランクルや、リトアニアにおいてナチス・ドイツに迫害された多くのユダヤ人にビザを発給して亡命を助けた日本の外交官 杉原千畝（ちうね）の話などもしました。 マゼラン時代から続いたスペイン統治からフィリピンが独立するために大きな役割を果たしたホセ・リサールは、スペインで医学を学んだ眼科医でした。私の大先輩、出田秀尚先生（熊本市出田眼科病院）の学ばれたハーバード大学眼科は、近代網膜剥離手術の祖、スケペンス教授（ベルギーでナチス・ドイツに抵抗運動を行なった）の時代にはフィリピン出身のトレンティノ教授がおられて、眼内の硝子体を詳細に観察し、眼底を丁寧に診ることの重要性を説いた教科書が非常に印象的だったことを思い出します。 学会の空き時間に観光タクシーでフィリピン市内を見て回りました。世界最大と言われるチャイナタウンでは、街のエネルギーに圧倒されました。私達を乗せてくれたタクシーの運転手さんは、ほとんど信号のない道路を我先にと飛び出して行き、横の車より少しでも車の鼻先が前に出ると相手が少し譲って割り込めるということを繰り返しながら、大混雑する街中を駆け抜けて行きました。またとても熱いツアーガイドであり、運転しながら後ろの私達を振り返ったままで熱心に説明するため、家内が「前を向いて、前を向いて」と心配する有り様でした。 「あなたはどうしてその年齢（60代後半？）でそんなに元気が良いのですか」と聞くと、「ガッツ（根性・気力）だ」と笑っていました。30年前開業した頃の歌「ガッツだぜ」（ウルフルズ1995年）という歌を久し振りに思い出しました。 （参考文献：「暁よ紅に わが血もて染めよ フィリピン独立運動の悲運のヒーロー ホセ・リサール」カルロス・キリノ著 駐文館） |
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